【本】トルーマン・カポーティ『遠い声 遠い部屋』

ところどころ文意が混濁して(少年の内面を表している)わからなくなるが総意は理解できたと思う。
初期短篇集と同じく僕は『冷血』より断然こちらの作風のほうが好き。

父の自分への無関心と自分の執着、田舎に対する郷愁と恐怖……ノンフィクション小説である『冷血』にまで登場するモチーフが見え隠れする。
カポーティ氏は澱のようにこびりついた過去の自分を振り払うことができなかった。
見えない部分でずっとそれは残っていたのだ。
『冷血』でそのモチーフが殺人犯の人格として顕在化し、その凶暴さに飲み込まれていったように見える。

主人公がヒロインのアイダベルと幸せになる展開はなかったのだろうか。
彼女が送ってきた葉書を読み返すたび、僕の自分の奥底の少年とつながっている部分が鷲掴まれるように痛む。
ここでアイダベルに興味を失う主人公の姿がカポーティ氏自身と重なってならない。
(アイダベルには実在のモデルがいたという)
きっとアイダベルとそのまま添い遂げていたなら、カポーティ氏はこの小説を書いていないだろうし、そもそも田舎を出て都会で小説家になることはなかっただろう。
都会を夢見ながらも、少年の延長線(イノセンスを残したまま)に田舎で暮らしていただろう。

これは、彼女を失うことによって得た物語だ。