六時に目覚ましがなったにも関わらず冷蔵庫のように部屋の外が寒くシャワーを浴びるため浴室へ向かうことができず引き返して布団の中に潜り込み、うとうと寝たり起きたりまどろんでいるうちに八時半、母の叫び声「ごはんやで!」でようやく布団から這い出る……結局一〇時間以上寝てしまった。
寝すぎで頭が痛い。
「のぞむ君まだ来ないの早く来て」
朝食後、何度も姉から電話がかかってくる。
一一時前、父に車で送ってもらい、駅前の病院へ。
久しぶりに入る病院の中には喫茶店やレストラン、美容院やコンビニが並んでいて、独立した街のようだった。
(病院は並んでなかった)
姉の病室へ向かう途中で、非常階段のガラス扉の前で看護師と佇む姉を発見。
姉は看護師にせがんでそこに連れてきてもらったようで、
ガラス扉からは病院の外……街の建物の谷間に僕の実家周辺がかろうじて見えていて、姉は僕が来るのをずっとそこで待っていたのだ。
姉がひっきりなしにせがむので車椅子に乗せ下のコンビニへ向かう。
ソーセージとヤクルトを欲しがったので購入、コンビニ内のテーブルで食べようとするが姉は一口食べただけで「いらん」と放り出す。ヤクルトも容器が小さいにも関わらず半分ぐらいで飲むのをやめる。
おそらくモルヒネで朦朧としているせいで意識レベルが低くなり、何かしたいという衝動だけが前面に出て、それが本当に必要かどうか判断する能力がなくなっているのだろうか。
誤ってヤクルトをこぼし、店員さんにテーブル拭きを出してもらう。
病室に戻っても姉は落ち着かず、ひっきりなしにベッドから立ち上がり何処かへ行こうとする。
腎臓の機能が低下しているのでトイレは五分に一度。
そのたびにナースステーションから看護師が飛び出してくる。
献身的な看護師の態度に頭が下がる。
なんで看護師って皆揃いも揃って可愛くて仕事ができて献身的なんだよ。
僕ももう少し若くてイケメンで背が高くてジャニーズに所属しているアイドルだったら盲腸で入院して剃毛されたかった。
姉は昼食をひとくち食べてすぐ看護師を呼び出し、トイレで全部もどしてしまった。
パジャマの下の姉の身体はガリガリに痩せ、昔見たアフリカの飢餓難民のようだった。
それでもベッドに落ち着いていられないようで、腰を下ろした途端すぐに立ち上がり、「ジュースが飲みたい」自動販売機のあるロビーへ向かおうとする。
ジュースを買って病室に持って帰ると一口で飲むのをやめ、またすぐに「ジュースが飲みたい」自動販売機のあるロビーへ向かおうとする。立ったり座ったり。
モルヒネによって人格が壊れていく姉を見るのは辛い。
あたかも人間を演じようとしている人工知能のようで、チューリングテストに合格するかどうかも怪しいレベルだ。
正月にあったときもずっとボーッとしていて自然が定まらず、人格の一部が壊れたような印象があったのけれども、それでも今回に比べるとましだった。
会うたびにどんどんひどくなっていく。
姉があまりにせがむので病室から病棟をいくつもまたいだ場所にあるドトールへ車椅子で連れて行く。
「おかあちゃんや」
姉がドトール前のガラス壁外を歩く僕の母を発見、中に連れてくる。
ハーブティーを姉に買い、病室につれて帰り、その後は母に託す。
ミング阪急高槻内のうどん屋「金毘羅製麺」で遅い昼食。
一五年近く前に香川のセルフうどん店「新宿麺通団」の讃岐うどんに衝撃を受けたものだが、こんな中途半端な街でもそれと変わらないものを食べることができるようになったのか……とまた違う衝撃。
父に頼まれた買い物で阪急電車で梅田へ向かう。
ヨドバシカメラでパソコン周辺機器を購入、とんぼ返りですぐ帰宅。
一七時前に帰宅して、自室で休む。
二一時過ぎ、弟が出張先から実家に寄る。
自宅(岐阜)に帰らず宿泊するとのこと。
深夜まで姉のこと両親のことを話している。
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