【本】『失われた宇宙の旅2001』アーサー・C・クラーク

『2001年宇宙の旅』の映画に合わせて作られたノベライズ版の様々な段階をつなぎあわせ、クラーク氏とキューブリック氏の思考の過程をみることができる書籍。

『2001年宇宙の旅』は映画としてはほぼ究極形の傑作だと思うが、小説版(物語として)は映画のバックグラウンドとしては興味深いけれども、歴史に残る傑作かどうかは疑問。
『幼年期の終わり』ほど思索の広がりがあるとは思えない。

しかし『2001年宇宙の旅』ラストのシークエンス、スターゲートを越えた以降の、この書籍に収録されているいくつかのバージョン、映画で描かれることのなかった一連のイメージが素晴らしい。
その片鱗だけで凡百のSF作品を蹴散らすほど。
クラーク氏の小説家として突出している部分である、その途方もない視覚イメージ力が、『2001年宇宙の旅』とその後のシリーズに縛られてしまい、浪費させられた。
クラーク氏のこの労力を小説に向けることができたら、他のたくさんの傑作が生まれたかもしれなかったのに……複雑な思いを抱く。