【本】『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム

中学二年で初読以来、折に触れ何度も読み返している。
読み返すにつれ(人生を重ねるにつれ)、違う印象になっていく。
この小説で描かれていることに対し、感じ取れる深みが増していく。

初読時には、自殺した妻があらわれる描写はホラーとしてしか読まなかった。
今回読みなおしてその奥になる恐ろしさの深みを知る。
このこの シチュエーション
人が普段見たくなくて心の底に隠しているフラッシュバックが現実化するようなものだ。
忘れたくて普段心の蓋の底に沈めているものが、暴力的に追いかけてきて、地獄のようなシチュエーションだ。

ようやくトラウマと対峙し、受け入れようとしたらその刹那に消えてしまう、翻弄されるがままの主人公。

そもそも人間同士すら理解し合うことは難しいのに、人類が他の知的生命体と容易にコミュニケーションできるわけがない。
惑星ソラリスを(コミュニケーションできない相手だから)爆弾で消してしまえ、という意見が地球文明にあったとの描写、タリバンのバーミヤンの仏像破壊を思い起こさせる。
理解できないものを自分の価値観で推し量ろうとする傲慢さが、個人レベルから文明レベルにまで広がっていく。
それでもラスト、一片の希望を持って終わらせるところにレム氏の作家として人間としての良心を見る。