【本】『スラン』A・E・ヴァン・ヴォクト

解説にも書いてあるがヴォクト氏は話が詰まると睡眠し、見た夢からヒントを得て書いたという。
これはシュルレアリスムの作家がよく使ったテクニックで、ちなみにシュルレアリスムはフロイトの精神分析の強い影響下で起こった芸術運動であり、現在では科学的立証が困難な精神分析を疑似科学とみなされることも多い。

さらにヴォクト氏はハウツー本で小説の書き方を学んだとか。
その方法は……

1:八〇〇語ごとに場面をかえる。

2:一場面は以下の五つのステップで構成する。
 A:読者にそこがどこかをわからせる。
 B:登場人物が何をしようとしているか、
   その場面が何のためのものかはっきりさせる。
 C:その何かを成し遂げようとする過程を描く。
 D:それが達成されたかどうか明らかにする。
 F:目的が達成されたにせよされないにせよ、事態は悪化する。

これも(ヴォクト氏だけが知っている)秘密のひとつなのだろう。
物語の冒頭は、確かにこの「小説の書き方」を使うことによって成功している。
しかし物語中盤から急激にボロが出はじめる。
後半あきらかに物語が破綻してしまう。
伏線をたくさんまき散らしているにも関わらずつじつま合わせをその都度だけしかせず、こじつけや問題の矮小化を繰り返すので、真面目に読むことが馬鹿らしくなってくるのだ。
八〇〇語ごとに夢で思いついたことを繰り返しているだけからそうなることは必然なのだが。
キャラクターも章ごとに別人格のようにコロコロ変わる。

いずれも後年、疑似科学にどっぷりハマったヴォクト氏らしい作話術だ。
他の人が知らない自分だけが知っている、世界を変えることが出来る秘密を切望する……点ではヴォクト氏の描く物語の登場人物は彼自身を体現しているかのようだ。