【本】★『 陽だまりの樹(全11)』手塚治虫

あとがきにて手塚氏は、幕末で曽祖父の手塚良仙が学んだ適塾を、氏の虫プロダクションと重ねたという。
「みなぎる活気とうらはらに誰もが貧しく、秩序も統制もないばらばらの個性の衝突、混沌の中に試行錯誤を続けたあの時代」……適塾を入れ子構造にしてさらに日本の維新と重ねあわせたのだろう。
手塚良仙は快楽主義でいい加減、武士の伊武谷万二郎を無骨で真面目……二人の主人公を描き分けることによって新しい時代をどう生きるかを象徴的に描いている。
二人の共通項は理想主義だが、若さは理想を伴うもの、そしてこの物語は青春ものとしても素晴らしい。
初読時はラストをあっけなく感じたが、今読み返してみると人は自分のピリオドのつけかたを運命に委ねるしかなく、この唐突さが歴史の流れの無常さをうまく表現していると思う。手塚氏自身の死がそうだった。