【本】乾くるみ『イニシエーション・ラブ』

何の前情報もなく(帯もついてなかった)読み始め、甘酸っぱくも悲しい恋愛小説だと素直に受け止めて途中で激しく自分の体験と重ね合わせて切なくなり思い出の人の何人かに電話やメールを送ってしまった。
もう一度読み返してギミックに気づき顔が赤くなった……どうしてくれる! 
最初はタイトルが大仰で「これはない!」と思ったが何回か読み返すとそこにこそ意味があることがわかってくる。
細かい伏線がよく出来ていて読めば読むほど理解が深まる。
読み始めに思っていたような人間の感情の襞に触れる文学、のようなものではない。
細かい情報から状況を読み解くパズルのようなミステリーだ。
こういうジャンルのものに慣れ親しんでいないから、何も疑わずにそのまま受け取ってしまった。

これはこれで一級のエンタメだが、どうも腑に落ちない。
いや正確に言うと腑には落ちるのだが、もう二度と感情移入する対象としてこの物語を読みかえすことができない。
他人に感情移入する心を弄ばれたような気持ち。