作者の突き放し感、クールさが逆におそろしい。
「こんな本を読んだ!」カテゴリーアーカイブ
【本】五代ゆう『〈骨牌使い(フォーチュン・テラー)〉の鏡(上下)』
【本】アクセル・ハッケ『ちいさなちいさな王様』
【本】トム・コネラン『たった1%変えるだけであなたの人生に奇跡は起きる』
【本】ロバート・A・ハインライン『輪廻の蛇』
ハインライン傑作集は全部目を通したと思っていたので、先日映画化された『輪廻の蛇』=『プリデスティネーション』を鑑賞して、
「原作と違う、どころかこんな話読んだことがない!」
とSHOCKを受けた。
確認のため、ハインライン傑作集第二巻であるこの『輪廻の蛇』を読んでみると、
「……この短篇集だけとばして読んでいなかったからだ!」
ということに気づいた。うへえ。
現代的にブラシアップされた新しく追加された要素含め、原作の短編より映画のほうがより深みのある内容だった。
それはともかくこの短篇集、他のアンソロジーで既読のものがいくつかあったがそれだけ優れたものが集められたということ。
間違いなく面白い。
『ジョナサン・ホーグ氏の不愉快な職業』
主観のゆらぎの描き方がディック的。
面白いけれどもページ数に対して内容が薄い。
『象を売る男』
ハインライン氏らしくない、ジャック・フィニイ氏を彷彿とさせる、強烈なまでのノスタルジック。
『輪廻の蛇』
『かれら』
冒頭の『ジョナサン・ホーグ氏の不愉快な職業』と同じく、ディック的な現実認識の揺らぎから今となってはありふれた感のあるオチ。
『わが美しき町』
ヤング氏のような甘い味わい。ハミルトン『風の子供』のような風や竜巻を擬人化する話、アメリカでは定番なのだろうか。
ドラえもんの台風のフー子の元ネタはむしろここにあるのかもしれない。
『歪んだ家』
SFアンソロジーの定番。
【本】山田正紀『宝石泥棒』
大人になってからいま読んでも楽しむことができたが、少年時代にこそ読んでみたかった。
その頃なら現実と物語世界の区別がつかないから、この物語世界を旅する自分を体験するかのように過ごすことができただろう。
これを小説として読んでしまうことがもったいない。
第一章とくに冒頭はジョーゼフ・キャンベル『神話の力』ではないが、物語の原型だけ抜き出したような展開、RPGのテレビゲームをプレイしているようだ。
少し淡白に思えたが、想像力のある若いころなら自分で肉付けして足りない部分を補ったのだろう。
内面描写が描かれ物語らしくなってくるのは第二章以降。
第三章は飛躍しているように見えるが、こういう展開になることはこの物語が生まれた文脈で読めば当然の帰結。
遺伝子、物理法則の帰結のように、運命じたいがプログラミングされたものであるという旋律がアレンジを変え、ずっと物語の底辺で流れ続けていた。
【本】堀晃『太陽風交点』
【本】倉田タカシ『母になる、石の礫【つぶて】で 』
全体から細部に向かって描写する定石の描写をしない。
ものすごく手前のことしか描写しないので、最初は何が起こっているか理解できなかった。
一〇〇ページ超まで読んでよくわからなくなったので、また冒頭から読み直す。
冒頭に戻ると、いくつかの事象についての説明を読んでいるので理解しやすくなった。
いつものペースで読まず、ゆっくりめに、何が起こっているか正確に確認していく読み方をして足掛け六日……
普段の数倍の時間がかかったけれども、ちゃんと内容を把握した上で最後まで読むことができた。
この作品と同じ第二回ハヤカワSFコンテスト出身の、柴田勝家『ニルヤの島』が理解できなかった自分。
もういまのSFについていくことができなないのではないかと不安に思っていた矢先だったので嬉しかった。
この小説に関しては、自分が絵を描く人だからどんどんバージョンアップされていく視覚情報に混乱してしまった。
作者は絵を描く人らしいので、その喚起するイメージが悪い方に僕とバッティングしてしまったのかもしれない。
【本】池谷裕二『記憶力を強くする』
【本】王城夕紀『マレ・サカチのたったひとつの贈物』
【本】マーカス・セイキー『ブリリアンス―超能ゲーム―』
超能力者が、高機能自閉症レベルの能力を持っている健常者……がこの物語の特色。
リアルといえばリアルだけれども、X-メンみたいな非現実的までの派手なアクションを想像していると肩透かしを食らう。
かといって退屈かというとむしろその逆、現代的にいくつかツイストをきかせた展開になっていて全く飽きさせない。
六〇〇ページ(二〇〇ページで終わりそうな話だが)を長いと感じさせず、一気読みさせてしまう手腕は素晴らしい。
ひさびさにページをめくるのがもどかしく思える面白い物語に出会った。
読んでからよく考えると基本的な構造は平井和正氏のゾンビーハンターシリーズと同じ。
絶対悪/ゾンビーを狩る主人公にもゾンビーと重なる部分(能力)があり、ラストで価値観が一変する。
僕はゾンビーハンターシリーズが好きだからハマった部分もあるのかもしれない
【本】小松左京『復活の日』
数年前からポツポツ小松左京作品を読み返したり、未読作品を読んでみたり。
この作品は僕にとって初読。
『日本沈没』『首都消失』と同じくSFというよりIF小説な色合いが強い。
もちろん小松左京氏らしいセンス・オブ・ワンダーも入っていて、世界で流行するウィルスの由来や結末はSFならではのアイデア。
生物学から社会学、国際政治まで知識の厚みが半端ないうえ稀有な文学的な素養もある、本当に稀有な作家だった……と今更ながら思う。
いろんな種類の人間を物語世界に放り投げ攪乱したその反応を丁寧に時間軸にそって描いていく、化学変化を観察するかのような小説。
自分的には寓話的な『日本アパッチ族』のほうがより好みなのだが。
【本】熊谷奈緒子『慰安婦問題』
慰安婦問題に対して肯定的、否定的な意見を照らしあわせて読むこと自体に意味がある。
読んでみると、やはり当初言われていたような拉致して強制労働させるという狭義の慰安婦問題ではなく、戦争という場で行われた広義の強制が問題の焦点になっているようだ。
ヨーロッパでユダヤ人を拉致して強制収容所に入れるようなイメージで慰安婦問題を教えられていたので、いつの間にかそうでなくなったことにモヤモヤする。
隣国は意図的にそんな強制収容所のようなイメージ(sex slave)で世界に広めようとしているのではないか。
結果的に(広義の)強制になったことを検証することは意味が無いこととは思わないが、その結果、日本だけ謝罪したら日本だけが悪いイメージになってしまう。
(戦争中の軍のレイプ問題は?)
それはそれで罪を認めることが出来るよい国というアイデンティティを持つことができて素晴らしいことかもしれないが、果たして自国以外の世界でそう捉えてくれるのだろうか。
隣国など日本がそれを認めたら国が存続するかぎり今よりいっそう(自分のことを棚に上げ)上から非難し続けるだろう。
認めたら損、という風潮を作ることが日本の国益だけでなく世界のためにもよいこととは思えない。