【本】『時計じかけのりんご』手塚治虫

個人的な印象では、この本は全集版の中で最も完成度が高い短篇集。
手塚氏の短編も全体を通せば藤子・F・不二雄氏に負けないほど面白いのだが、平均点は高くない。
F氏はストイックに「奇妙な味」中心に描くのだが、手塚氏は好きなもの(描きたいもの)の範囲が広すぎて、ともすればバランスを失いがちになってしまう。そしてあきらかにオーバーワーク。しかし下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる(しかも下手でない名人芸)わけで、珠玉の作品も生まれるからそれを一概に否定できないが。
あとがきにて手塚氏いわく、「時計じかけのりんご」はニュアンスだけでつけたタイトルとのこと。同じように「ロスト・ワールド」「メトロポリス」等も原典を読まずにつけたタイトルなので、似たタイトルだからと作品を比較して論じられても困ると力説。
最後に自分の描いた「最上殿始末」(全集『火の山』に収録)に言及、黒沢明「影武者」に似ていると誤解する方がいるなら、それは偶然で自分が先に描いたものだ!と主張し始める。
勢いあまって他の作品集の言い訳をここでするということは、誰かに言われてよっぽどカチンときたのだろう。