【本】スタニスワフ・レム『泰平ヨンの航星日記』

骨の折れる本だった。
五〇〇ページの小説をトータルで一〇時間、期間を一週間かけてようやく読了。
僕にとって通常の本の倍以上のペース。

「泰平ヨン」というヘンテコな名前から、小松左京『明日泥棒』に出てくるゴエモンみたいなものを想像していたら……思いがけず常識人、変な事件に巻き込まれてもあくまでツッコミを入れるだけ。
その世界の人達と必要以上に仲良くならない、あくまでも鑑賞者・傍観者としての役割だ。
家族や恋人など人間関係のバックグラウンドも極めて希薄。
もうちょっとキャラクターが立たせたり、目的を持たせてもよかったのではないかと思う。

短篇集なので一気読み出来なかったというせいもあるが(中断するたび設定を確認するため個々の短編冒頭からさかのぼって読み直し)、
基調は筒井康隆氏のようなスラップスティックなのにも関わらず、ギャグがエスカレーションするたびに膨大な文字数を使って説明するから、もう、面倒くさい。
単純にナンセンスで終わらせればいいことでもイチイチ理屈が入る。
理屈をこねること自体がナンセンスなのかもしれないけれども、僕にとっては面白い部分を相殺するいきおいで面倒くさいことが始まるから、事態が飛躍するたびに無意識に飛ばし読みしてしまう。
そして飛ばし読みしていたことに気づくとまた戻って読みなおす。
しかし油断しているとまた飛ばし読みする。
……そんな僕の無意識と意識の戦いが、この小説上で繰り広げられていた。

ナンセンスに理屈をつける/あるいは理屈をつけるていのナンセンス……を入れるのは、当時社会主義国家だったポーランドで発表された小説だからなのか。
(個人の楽しみのためのナンセンスは許されない!みたいな)
それともレム氏のくせなのだろうか。
レム氏に関しては今までシリアスな長編ばかり読んできた僕は非常に戸惑った。

ただ、この短篇集は、それら長編に匹敵するほどのスリリングな思考実験が入っていることには間違いなく、この本を読みきった自分を褒めてやりたいのと同時に今まで読んでこなかった自分を罵ってやりたい。