【本】小川哲『ゲームの王国 上下』

力作だった。上巻はカンボジア革命前後のことが、下巻は現代(近未来も含め)のカンボジアについて描かれている。
僕は以前フランス人のアシスタントを雇っていたのだが、彼女の家族は虐殺時にカンボジアから逃れてきた移民だった。
(互い母国でない英語でしか意思の疎通ができなかったのでこまかいニュアンスはわからなかったが)
兄弟の半分は虐殺で亡くなったという。家族や環境のせいもあって、彼女は幼い頃から精神が不安定で、でも日本の文化が好きで絶望したときエヴァンゲリオンやコードギアスを観たり、X JAPANやMALICE MIZERを聴くことで救われたという。そして日本に漫画を学ぶために訪れて、僕と出会った。
そんなことを思い出しながら、上巻のカンボジア虐殺部分を読んでいるとどうしてもアシスタントだった彼女の家族のことを想像し、強いストレスで読むことが苦痛でやめそうになって、でも目をそらしてはいけない思いもあって必死に読み続けた。上巻のラストは涙無しで読み続けることができず。
こういう大きな歴史を描いているにもかかわらず、登場人物の設定が昔ながらの歴史小説というより、寓話的(漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のよう)で、そういえば大河歴史(的)小説でいうと池上永一『テンペスト』や東山彰良『流』などもリアルというよりそういう寓話的なキャラクター造形だった。
下巻につながるジョイントは正直完全に成功しているとは思えないが、逆に一筋縄でいかない人間の運命を真摯に描いているとも感じた。ここらへんは好き嫌いだけれど。ともあれ、スリリングな読書体験だった。