【本】『千年万年りんごの子(全3)』田中相

リンゴ農家に婿入りした主人公は、あやまって自分の嫁に禁断のりんごを与えてしまう、それは村に伝わる秘密の祭儀のはじまりだった……という話。

ラストはいわゆるハッピーエンドにならなかったが、昨今の「愛が勝つ」ような個人的恋愛の勝利へ安易に至らず、しかし愛が負けたわけではなく、主人公はじめ周囲の人たちがこの出来事によって得ることができた、(諦念にも似た)ほんの少しだが地に足の着いた安らぎを見ていると、作者の誠意を感じる。

それは漫画の表現とも連動していて、漫画的な醍醐味である、ダイナミックな飛躍、高揚感と、「言語化できない」心の動きを表現する繊細な表現の対立が、ラストにおけるファンタジーとリアルの戦いと同じく拮抗している。

この漫画で描かれていることは東北の村の秘密の祭儀についてでだが、寄る辺もなく佇んでいる主人公が自分の居場所を見つけようとする行為が、普遍的なテーマにつながっていて、読んでいる僕は、翻って自分のこと、この世界のことに思いを馳せている。

……本当に漫画がうまいひとだなあ。

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