【本】『手塚治虫小説集』手塚治虫

主に一九五〇年代から六〇年代までに書かれた、日本ではまだ商業的なジャンルとしてSFが成立していなかった頃の小説が集められている。
江戸川乱歩や海野十三を彷彿とさせるような懐かしい匂い。
冒頭の長編『蟻人鏡』は、当時の少年もの読み物の水準を鑑みればじゅうぶんだと思うけれども、現在のリアリティラインから考えると、あまりに異人種の人間と同じすぎる情緒にかえって感情移入できない。もう少し蟻人独特の考え方、価値観が反映されていればよかったのに……って二〇年以上前に亡くなった人が六〇年前に書いた小説にいま何言ってんだ俺。