【本】『黄色い鼠』井上ひさし

オーストラリアに住む邦人が、戦中の日本人収容所虜囚の手記をもとに小説に再構成した……という体の物語。
この小説を書いた当時、作者の井上ひさし氏がオーストラリアに移住していたことをあとがきで知る。それを踏まえると井上氏が実在した手帖をもとに再構成したノンフィクションという設定のメタフィクションなわけで、あとがきから読んでいたらより楽しめたのに、と残念に思う。

異郷の地で日本人とは何かを考える主人公。
フランス人ならフランス語、ユダヤ人なら宗教……日本人は?「答えはたぶん〈同じ血〉だ」
井上氏もオーストラリアで日本人とは何か考えたのだろう。僕も宮古島からさらに離島へ向かうフェリーの中で、日本人とは何かと考えながら読み続ける。

アボリジニの死生観が興味深い。双子はカンガルーなど他の動物の魂が間違って入ったもの。間違えて入った赤ん坊を間引きする。
捕食したもの、殺したものに生まれ変わる。
蛇に噛まれて死んだら蛇に、太陽に灼かれて死んだら太陽に、自殺して死んだら本人(人間)に生まれ変わる。

そして僕にとって日本人とは何か、自分にはまだ現実感がなく、わからない……