【映画】『R100』

前半は映画として成り立っている。
特に仕事場に現れた男が主人公をベッドの隙間に引きずり込むシーン、SM嬢が職場のトイレに現れるくだりまでは普通に面白い。
それが独創的なものかどうかはともかくとして、そのまま「普通」に面白いものは出来たのでは?
この展開がストレートに進んでいったらどうなるのか観たかったが、そんな「普通」のものを松本人志氏が作ることはないのだろう。

一見すると主人公がプレイによって「徐々に」現実から異世界に引きずりこまれていったように見えるがそうではない。
冒頭シーンで通行人が主人公とSM嬢のプレイを無視して空気のように扱っているということは、もっと最初、秘密クラブに主人公が訪れた時点から主人公はそういう異世界に取り込まれている。

強い物語性がない。
植物人間状態の妻、義父、息子、勤め先……人間関係にそれぞれ一見「ぽい」エピソードが挿入されているが、それが何かを象徴的に浮かび上がらせることはなく単なる設定。

SMというよりただの暴力行為。
痛み以上の複雑な感情がそこにはない。
そもそもSとMは区別できるぐらい単純なものなのか?

一〇〇歳を超えなければ理解できない内容とは思えない。
R100というRはどういう意味?
想像もできないぐらいエロくもなく暴力的でもなく半社会的でもない。
松本氏が幾度となく「自由にやれない」と嘆いているテレビ業界と同じ、ノリだけで作っている。
ここで描かれていることは三〇年以上前、筒井康隆氏がやったことばかり(の劣化版)。
この映画から新鮮さを何も感じ取れなかった。

ベートーヴェンをもっと効果的に使えなかったのか?