【本】グレッグ・イーガン『ゼンデギ』

先日読んだ同じイーガン氏の『白熱光』に比べると、これはだいぶ普通の小説で肩透かし。
普通に起承転結がある、構成がさほどトリッキーでない。
しかしイーガン氏はやはり一筋縄でいかない。

舞台は二〇年後のイラン。
癌に侵された主人公が死ぬ前に自分の思考をコンピューターにアップロードする。
ヨーロッパのジャーナリストだった主人公は友達(死後、子供を引き取ろうと言ってくれた)のイラン人の倫理観が信用出来ない。
そこでアップロードされた自分の人格(人工知能)に、子供を教育させようと考える。

SF系の読書会に参加するとこの小説に対して肯定的な意見が多かったので驚愕。
善意の友達を信用できず自分の分身を作ろうとするこの小説の主人公に僕はとうてい感情移入できない。
そもそも、その行為自体が倫理的にダメではないか。

今から毛が生えたレベルの人工知能って、高度なbotにしか過ぎない。
最適な言葉を選んで言うだけで、人間のような思考ルーチンはない。
外から見て人間と変わらないリアクションをとる、というだけで魂のない存在に倫理観を託すぐらいなら、元ジャーナリストなんだから口述筆記(Siriのようなものも相当発達しているだろう)で言葉を残せばいいじゃないか。
SF的設定にするために無理に作ったプロットのような気がしてならない。