【本】夏目漱石『行人』

描かれている出来事のレベルで言えば、電話や鉄道、車……現代と基本的には変わらない。
しかし変わらないところが多いとよけい現代との微差が気になる。

主人公の兄が悩んでいることが現代的……おそらく現代なら考えても仕方のないことだと一笑に付されるようなことを真剣に悩んでいる。
(結婚した相手が本当に自分を愛しているのか?)
逆にそれまで(鎖国時代以前)の日本的価値観でもそれはそういうものだと割り切っていたのではないか。
兄は、急激な西洋文化の流入とそれまでの日本的価値観の対立の犠牲者?

僕が今たまたま平行して読んでいる宮部みゆき氏(現代の大衆文学)と違い、実は主人公がどう考えているのかという完全な答えは最後まで明示されない。
主人公を誘うような素振りを見せた兄嫁、それは主人公の自意識過剰だったのか、本当に誘っていたのか。

ニーチェやテレパシーの概念のような物を扱っている。
ギリギリ江戸時代生まれの人が、明治時代の末期に書いた小説に最先端の(同時代の)言葉が出ていることに驚き。
当時は時事ネタを取り入れた流行作家、現代で例えば伊坂幸太郎みたいな感じだったのだろうか。