二時起床。
前日何も用意しないで寝たので、急いで荷物をザックに詰める。
大体の行く方角を決め、宿泊場所と旅先の飲食店をリストアップ。
小雨ふりしきるなか、五時過ぎ家を出る。
六時過ぎ、池袋で待っているが、待ち合わせ時間になってもS君の姿が見えない。
悪い予感。
待ち合わせ時間が過ぎてしばらくして連絡すると寝坊していたとのこと。
S君は三〇分遅れで到着、池袋から鈍行に乗車してひたすら北へ向かう。
水上駅で三時間の電車待ち時間。
雨が降ったりやんだりだが、駅で待っていてもしかたがないので近辺を散歩する。
普段なら清流であろう渓谷に流れる川は泥水で溢れかえっている。
足湯があったので入ろうとすると冷たくて悲鳴を上げる。
こういう寂れた街並にありがちなトリックアート美術館がある。
入ると余計寂しい気持ちになりそうなので近くまで行ってから引き返す。
定食屋で昼食。
駅に戻っても時間が余っているので、今夜の宿を決めるためリストアップした宿屋に電話をかけていく。
(地方の宿はシーズンによって値段が変わるので、直接聞いてみないとわからない)
五番目に電話をかけた宿屋が一番安かったので、そこに宿泊することに決める。
「花火を観に来るんですよね?」
と宿の人が聞いてくる。
どうやら、たまたまその地方の大きな花火大会がこの日あるらしいのだ。
日本列島に台風が直撃している日に花火もなにもあるもんか、と思う。
ところが、水上駅発の鈍行に乗り長い長いトンネルを抜けると天気が激変する。
晴れ間が見る見る広がり、車窓からくっきりとした虹が山の麓に突き刺さっているのが見える。
長岡駅に着くと、西から広がりだした青空が天の半分にまで迫り、晴れと言ってもいい天気。
近所を散策する。
信濃川の河川敷から海側を臨むと、ドラマチックな雲が渦巻いている。
西日で陰影が強調され、雲それ自体が芸術作品のようだ。
宿の最寄り駅を目指す鈍行に乗る。
車窓の外の風景を見ると、電車が移動するのにしたがって山のふもとに虹が移動している。
一七時過ぎ、最寄り駅で降り宿を探す。
調べた住所をネットで表示すると、家のない林。
なかなか見つからない。
近所のおばあさんに聞くと、道の外にある草むらの中のケモノ道みたいなところへ案内される。
こんなところわかるわけねえだろ!
ようやく宿に到着。
普通の民家を改造してゲストハウスにしている宿だ。
家の隣のログハウスに案内される。
入り口にぶら下げている杉玉にスズメバチが寄ってきて危なっかしい。
僕と宿のおかみが話していると、おしめをつけた子供が玄関から出てくる。
子供が出てくるときにペットゲートを倒したので、イヌも一緒に出てきて僕の足元をとびまわる。
子供は口にしたアイスからしずくを落としてウロウロしている。
ログハウスには鍵がついていなかった。
(あとでS君が宿のおかみに言ってもとりいってもらえなかった)
今日は近所の神社で花火大会。
近所の定食屋でラーメンを食べ、夕暮れの赤に染まる田んぼの真中の道を歩く。
周囲が次第に暗くなり、人が多くなる。
歩く方向についていくと町の真ん中、神社の境内に到着。
夜店で賑わっている。
僕はトルコアイスを買う。アイスがのびる。
アナウンスが始まり、空を見上げると巨大な花火、そして大音響……あまりに大きい打ち上げ音で民家の窓ガラスが音で震えている。
都会ではありえない。
人の多さに疲れ、会場から離れた田んぼ沿いの駐車場で花火を見ていると、地面の冷たさでお腹が冷え、腹痛。
二〇分ほど歩き、近くのコンビニに向かう。
途中で何度も漏れそうになり、額の汗を拭い我慢する。
幸いコンビニのトイレが空いていたので飛び込んで用を足すことができた。
念のためS君もトイレに入るというので、待っていると、外で大きな花火が上がる。
数秒して、ガラス戸が衝撃波で震える。
(後で三尺玉だということがわかる)
会場から三〜四キロ離れたコンビニ近くの歩道に移動、敷石に腰掛けS君と二人で花火を見ている。
二二時、世界最大の大きさ四尺玉花火が上がる。
空の半分の高さにまで達する巨大な花弁が開き、数秒後、大音響と衝撃波が周囲を襲う。
歩道に座っていた観客がいっせいに身を反らす。
地面が震えているような錯覚ががしばらく続く。
一人二人と立ち上がり、その場を去っていく。
僕たちも満足して宿に戻る。
二三時就寝。