【本】『カオスノート』吾妻ひでお

『アル中病棟』と打って変わって意味性の低いギャグ漫画。
コマ割りも絵も漫画演出的にはわかりにくいところがない(吾妻氏の読者に対する客観性がきわめて高い)。
きれいに整理されている内容の、ある限られた部分だけがナンセンスだから「ここはこういう部分のナンセンスなのだな」と読者から見ると整理しやすい。
吾妻氏のナンセンスは完全に意味が無いわけでなく、どこかしこに思考の痕跡が見える。
実は、このわかりやすく見せていること自体が凄まじく高度なことなのだが。

名人芸の大喜利を見せられているようだ。
しかしその芸は外から見えるほど簡単なものではなく稀有な才能によって生み出されたもの。
卓越した職人芸と天賦の才の両輪がなければこの漫画は成立し得ない。

僕の好みは135ページの「ちょっと! 今私の足見たでしょ!」のエピソード。
理屈が通っているようで、通ってない……ぐんにゃりした気持ちになるものが好き。

学生時代から本屋や古本屋を巡り吾妻氏のSF漫画を集めていた自分からすれば、新作を読むことができるというだけで至福のひとときだ。