こんな本を読んだ!」カテゴリーアーカイブ

本を読むことはあまり得意じゃないのですが、頑張って読んでいます。
 
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【本】ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』

僕には、一九二〇年代と言う時代か、フランスという場所か、ラディゲ氏という作家の個性か……そのどれが理由かわからないが、どこまでが意図的なのかわからなかった。
物語が心の動き中心に描かれてはいるが、リアリティを感じることができず観念的に思える。

そのあと、ラディゲ氏によって先行して書かれた『肉体の悪魔』を読んで少し理解が進む。
『肉体の悪魔』がA面ならこれはB面の関係。
あちらはリアルタイムの心情の変化を描いていて(ルポルタージュや実況中継のように)、こちらはチェスのようにコントロールされた状況下での心情の変化を描いているのだ。

【本】ラディゲ『肉体の悪魔』

その場の空気を冷凍保存してそのままリアルタイム解凍しているかのような、すさまじい心理的臨場感。
尋常な気持ちで読んでいられない。
自分の心に関してここまで熟知しているということはずばらしいが、恥ずかしげもなくそれを描写するラディゲ氏はある種のサイコパスかもしれないとまでも思う。
僕は……正視できない(だからクリエーターとしてダメなんだ!)

【本】根本敬『果因果因果因』

学生の頃いちばん好きだった作家、根本敬氏のフィクション短篇集。
自分が好きだったテイストがフィクションの中にも残っている。
善でも悪でもない世界の底に沈殿した澱の中の混沌とした世界に自分は憧れた。
そして学生時代は傍観者だった自分が時を経て澱の中に埋もれ、いつの間にかリアル世界で根本氏の描くあちら側に片足を突っ込んでいることに気づく。
おそらく根本氏の世界がこちら側に侵食しているのだ。

【本】遠藤周作『イエスの生涯』

一〇代の終わりに読んで以来、数年ごとに読み直している。
キリスト教に対して興味をもつきっかけになった書籍。

イエスがどの程度自分の運命を把握していたのか、コントロール出来たのか、イエスが復活したということが比喩なのか、本当に復活したと弟子たちが捉えていたのか、キリスト教徒からすれば信じることが先なので、それはわかっていた、真実だ、ということなのだろうけれども、実際のところはどうだったのか、どうも飲み込みにくい。
今回の再読でもわかったようでわからなかった。

わからないことに対してはそういうものだと信じなければならない……それが宗教なのかもしれないが、キリスト教徒でない僕にもわかる理屈がないのだろうか。
その理屈を聞いて納得したとき、僕はキリスト教に入信するのかもしれない。

【本】成毛眞『情報の「捨て方」 知的生産、私の方法』

書かれていることがあまりにも功利的過ぎる。
いい、悪いは実は本人の主観でしかないのに、あたかもある種の絶対的な価値観があるように誘導(あるいは錯覚)させている。
意味のない情報のなかでたわむれることに無常の楽しみを見出す人をバッサリ切り捨てるって……人間って有用なことだけで進化したわけじゃなくて、この世界で大切なことは、一見無用に見える九割九分九厘の屍の上に築かれているのではないか。

【本】アーロン・フリードバーグ『支配への競争: 米中対立の構図とアジアの将来』

ここまで包括的に対中国について書かれた書籍は読んだことがない。
悲観や楽観はなく冷徹に考えうる限りのあらゆる状況について言及されている。
インフラがある程度完成して人口のボーナスが終わった以降の国が発展するヴィジョンを中国が見いだせば、逆に日本がそれを真似て発展するチャンスになるかもしれない。
最終的に中国が民主的国家になれば今抱えている周辺国絡みのトラブルは減るとのことだが、そもそもいまの中国の国是は共産党体制を継続させることなので、中国が中国でなくなるか、今のまま続くか……究極の選択しかない。

【本】金子正晃『デジタルマインドマップ超入門』

アナログ・デジタルのメリット・デメリットがよくわかる。
でも手軽に展開できるという点でいまはアナログに軍配を挙げざるをえない。
まだデバイスは発展途上で、iPadでも手書きの手軽さに及ばない。
コンマ何秒かのレスポンスの悪さが思考を妨げる。

(よくよく考えるとこれはマインドマップの感想であって、この書籍自体の感想ではない)

【本】乾くるみ『イニシエーション・ラブ』

何の前情報もなく(帯もついてなかった)読み始め、甘酸っぱくも悲しい恋愛小説だと素直に受け止めて途中で激しく自分の体験と重ね合わせて切なくなり思い出の人の何人かに電話やメールを送ってしまった。
もう一度読み返してギミックに気づき顔が赤くなった……どうしてくれる! 
最初はタイトルが大仰で「これはない!」と思ったが何回か読み返すとそこにこそ意味があることがわかってくる。
細かい伏線がよく出来ていて読めば読むほど理解が深まる。
読み始めに思っていたような人間の感情の襞に触れる文学、のようなものではない。
細かい情報から状況を読み解くパズルのようなミステリーだ。
こういうジャンルのものに慣れ親しんでいないから、何も疑わずにそのまま受け取ってしまった。

これはこれで一級のエンタメだが、どうも腑に落ちない。
いや正確に言うと腑には落ちるのだが、もう二度と感情移入する対象としてこの物語を読みかえすことができない。
他人に感情移入する心を弄ばれたような気持ち。

【本】牧野修『月世界小説』

自分が望んでいた方向に話が転がっていかず、混沌としたまま終わる。
冒頭の面白くなりそうなイナゴのシーン、それ自体は意味がなかったのかあ。
う〜ん。
もう一度、読み返してみよう。

連想したもの、『幻影の構成』『驚愕の曠野』『脱走と追跡のサンバ』『宝石泥棒』

(追記)
読み返して印象が一八〇度逆転、ここまで変わる小説は珍しい。
紛れも無い傑作!