こんな本を読んだ!」カテゴリーアーカイブ

本を読むことはあまり得意じゃないのですが、頑張って読んでいます。
 
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【本】『SFマガジン700【海外篇】』山岸真・編

七〇〇号を数えたSFマガジンで今まで掲載されたものの中から、単行本未収録作品中心に編まれた短篇集。
発表期間が最初と最後では六〇年以上開いているので、一冊の本として通して読むには頭の切り替えが大変で、手こずる。四時間かけて読了。

メモ:
「遭難者」 アーサー・C・クラーク
3点。
プロットむき出しで投げ出されたのような。六〇年代より前のSFはこういう科学的なセンス・オブ・ワンダーむき出しのものが多かったような印象。

「危険の報酬」 ロバート・シェクリイ
6点。
達者なエンターティンメント。当時なら申し分ないが、現代ならオチにあと一工夫必要。発狂したというラストはもはや、夢オチのように定型化している。

「夜明けとともに霧は沈み」 ジョージ・R・R・マーティン
3点。
センス・オブ・ワンダーと物語が結びついていない。これは地球上でも何なら日本の山奥でも成り立つような話。

「ホール・マン」 ラリイ・ニーヴン
7点。
キャラクター、ストーリー、センス・オブ・ワンダー全てが上手く絡み合っている。

「江戸の花」 ブルース・スターリング
7点。
前情報がなければ、日本人が書いた時代小説風ホラーと思ってもおかしくない。よく調べられているしエンターテイメントとしても面白い。魔物が『ファウスト』における悪魔の取引のように文明の象徴。西洋という文明の出会い。サイバーパンクが新しいテクノロジーの出会いを描いているとするならば、一見無関係に見えるこの物語もそういう意味ではサイバーパンク的だとか。

「いっしょに生きよう」 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
9点。
今まで読んだティプトリーの中で最もわかりやすかった。希望のある展開がうれしい。しかしぎゃくにティプトリーにしては無邪気すぎることの謎は残る。取り込まれることの恐怖をあえて書かないことの意味は?

「耳を澄まして」 イアン・マクドナルド
4点。
次の世代の可能性? よくわからなかった。

「対称(シンメトリー)」 グレッグ・イーガン
3点。
空間の上下、時間の上下がない世界。よくわからなかった。

「孤独」 アーシュラ・K・ル・グィン
7点。
大長編を読むのに匹敵するほどのボリューム。男女間の問題にここまで固執する部分がよくわからない。が、時代が時代なら誰もが考えていたのだろうか。

「ポータルズ・ノンストップ」 コニー・ウィリス
7点。
筒井康隆っぽい。こういうSFっぽくないワンアイデアものは何も考えず読むことができるのでよい。途中まで実在のSF作家を架空の作家と誤読していた。

「小さき供物」 パオロ・バチガルピ

7点。
物語的な云々そのものより、発想とイメージが全てを上回るぐらいにインパクトがある。

「息吹」 テッド・チャン
10点。
興味深い。センス・オブ・ワンダーと物語が切り離すことができないぐらい結びついている。宇宙の熱的死のメタファー。ルネサンス期の人体解剖、天文学的な発見……人間社会の風刺、隠喩もあって、SFの優等生のような物語。そして希望もある。

【本】『成田亨作品集』成田亨

僕が絵を描いたのはオバケや妖怪や怪獣の模写からだった。

小学一年のある日、模写だけで飽きたらず
「そうだ! 自分で怪獣をデザインしたらいいんだ!」
オリジナルの怪獣を描き始め、友達と怪獣ごっこしながら自分怪獣図鑑を作り、漫画(ノゾトラマン)を描いた。
これが僕の絵と漫画のルーツ。

ガラモン、ケムール人、ブルトン、ジャミラ、バルタン星人、ゼットン、ビラ星人、メトロン星人、チブル星人、エレキング……当時好きだった怪獣のほとんどが成田亨氏のデザインだったことを、後に知る。

ウルトラシリーズ以前の怪獣はゴジラなど恐竜や動物をベースにしたものが多かったが、高度なコラージュ、そして無生物的な要素の挿入、抽象化……成田亨氏は現代美術的な概念を取り入れ、怪獣の概念を大きく塗り替えていった。
ドドンゴやペスターなど、一人の人間が入って怪獣を演じるというぬいぐるみの概念の逸脱。
ガボラやケムラー、ザラガスなど形にギミックがあり段階を経て怪獣が変身する遊び心。
何よりも新しいヒーローのアイコン、ウルトラマンの創造……観る人の感情の動きを投影させる、シンプルがゆえに複雑な感情表現を可能にした菩薩像のようなマスク。

怪獣の、独特な三白眼も懐かしい。
これもよくよく考えてみれば成田亨氏オリジナルのアイコンだ。

夜行バスで半日かけて富山県立近代美術館に到着後、二時間かけて何度も成田亨展を鑑賞したあと、五〇〇〇円でこの本を購入……ことあるごとにこの本は読み返すだろう。

【本】『円谷ヒーロー ウルトラ怪獣全史』 講談社・編

円谷プロ製作の怪獣のデザイン、造形について焦点を絞った書籍。

八〇年代に出版された書籍を再編したもの? 
収録された写真のどれもこれも、いつかどこかで見た覚えがあるのだけど。
……しかし確信もなく、懐かしさに浸りながら読んでいる。
既視感といったらない。

雑誌風のレイアウト、写真チョイスのセンスが光る。
制作者サイドのコメントが大量に入っていて、怪獣好きには堪えられない。

ギロン人のぬいぐるみを改造してアングラモンが作られ(確かに頭部の原型がそのまま!)、
メフィラス星人二代目は時間がなかったのでアトラクション用の着ぐるみ(だから造形がもっさりしている!)、
『タロウ』で登場した巨大ヤプールが劣化した印象なわけは、『A』登場時と同じ着ぐるみだがアトラクションで使用され傷んでいたため、
バキシムは牙虫のアナグラム。

なるほど、興味深い!

【本】『図書室の魔法(上下)』ジョー・ウォルトン

日記の形でしるされた思春期の少女の幻想と現実が交互に繰り返される物語。

孤独感を抱いている少女が、徐々に現実と折り合いをつけていく。
そのきっかけが魔術とSF小説。

少女のSF嗜好は僕と似ていなくて、僕が三〇代でチンプンカンプンだった小説を一五歳で激賞していたり……僕よりずっとませているな。

日常があまりにも淡々としていて、それがリアルといえばリアルだけれども、個人的にはもう少しドラマチックな物語を読みたかった。

冒頭で、これが何かの隠喩を含んだ物語であることはあきらかにされているが、逆にその言葉によって腑に落ちすぎてしまうのが勿体ない。
もう少し幻想寄りにして本当の物語がかろうじて読みとれる程度に描くとか、あるいは冒頭のあの言葉をざっくり消して違う表現にしするとか。
まあでもそれは僕の個人的に感じたことなので、この物語の完成度は申し分ない。

そういえば僕も最近、初めて読書会に行った。
【日記】14年08月03日 体重60.0kg

僕は彼女のような孤独感が「自分なりに」想像できる。
スポーツができたり、共通の話題が多い趣味を持ってたり、友だちが多い人とは根本的に異なる世界に自分は生きているのかもしれない。
大宇宙の深淵をずっとさまよっている気持。
今、表現に携わる世界の片隅でかろうじて仕事をしているが、デビュー以来一貫して感じることは、暗闇にボールを投げ続けているような一方通行の決してわかり合えない不安感だ。

そんなこんな、物語自体はピッタリはまるとは言い難かったが、僕の物語世界へのシンクロ度は予想以上に高くていろいろ考えさせられた。

【本】『世界が終わってしまったあとの世界で(上下)』ニック・ハーカウェイ

文明が滅びつつある世界を描いたIF小説かと思って読んでいたら、上巻のラストから怒涛のセンス・オブ・ワンダー爆発な展開、一気にハイブローな世界観のSFに変わる。

物語とは往々にして自分探しの象徴であることが多いが、この物語はあるポイントを越えると、主人公の行動が比喩でなく本当の意味の自分探しに変わる。
上巻に描かれていたことが、その一点を越えてから読み直すと違った風景に見えるSF的にも物語的にも途方もない仕掛けだ。

饒舌過ぎてわかりにくい部分もあるが、全部通して読むと理解できるようになっている意外と親切設計。

青春一八切符で大阪から東京へ帰る鈍行の一〇時間ですら、読み切ることができないほど長くて重い内容だったが、そのスリリングな体験は何ものにも代え難かった。

【本】『誘爆発作(1~4)』岡村星

漫画を読んでひさびさにドキドキした。

絵や細部の不満点を吹き飛ばす、圧倒的なストーリーテリング。
いくつかのシーンではどうしても読み進めることができなくて、いったん本を閉じ心を落ち着かせてからまた開く……を繰り返してしまう。

こういう能力を持っている者同士が、その力を用いて猟奇事件を解決していく設定の漫画かと思いきや、堀尾省太『刻々』のような、ひとつの事象をとことん掘り下げるタイプの物語だった。

しかし二〇一一年に初めて単行本が出てからもう三年か。
四巻まで一気読みした僕ですら、
「まだこの先続きますのん!?」
と歯がゆく思うのに、リアルタイムで読んでいる読者の先の待ち遠しさと言ったらないだろう。

敵と味方のシーソーゲームがほぼ同レベルで拮抗しているので、僕の好みとしては、もっと敵の強さを圧倒的にして、何度も失敗してはふりだしに戻りつつ最後は知略を合わせてかろうじて打倒できるような『ジョジョの奇妙な冒険 第四部』のような展開なのだが、半年で単行本一冊という連載のスピードではそこまでカタルシスを先延ばしにすることができないか……

【本】『さよならダイノサウルス』ロバート・J.ソウヤー

予想していたよりはるかに荒唐無稽な内容だった。
小説というより漫画のようなリアリティー。
それもちょっと懐かしいSF漫画を読んでいるような。
宇宙人が地球人と極めて近い思考ルーチンで話すことも、今っぽくないところだろうか。

この小説は面白いかというと、それはじゅうぶん過ぎるぐらい面白い。
面白い前提でひとつひっかかったこと。

ダイノサウルスが滅んだわけが『宇宙戦争』みたく未来からもたらされた病原菌あるいはウィルスかと思っていたらそうではなかった。
実際にあったことや主人公に絡んだことから展開するならなるほどと思うのだが、ここではこの小説の中だけにある設定、実際にないことが前提になってダイノサウルスは滅ぶのだ。

う〜ん、納得がいかない……

【本】『星のポン子と豆腐屋れい子』小原愼司×トニーたけざき

何と! 表紙の絵と内容が全く異なるという……これはいったいどういう試み?

第一話で感情移入したらするだけ損をするという展開……この漫画はどう解釈したらいいのだろう? 
暴力的なまでのハッピーエンドも意図がわからない。
そこまで深い意味はなくて、肩の力を抜いて作った、ちょっと不思議な漫画、ということなのだろうか。
物語演出も漫画も抜群にうまくて読ませてしまうだけで混乱が増してしまう。

豆腐もあまり意味はないのかなあ……

【本】『ブラックホールを破壊せよ』 J・クレイグ・ ウィーラー

僕が高校のとき、父親が買ってきた本。

邦題は一九八五年ベストセラーになった『レッド・オクトーバーを追え!』を意識して無理やりつけられたもので、ばったもん臭プンプン、当時から面白くなさそうな本だな〜と思っていたのだが、とうとう二〇年以上も放ったらかしてしまった。
死ぬまで読むことがないだろうと思っていたが、実家に帰ったついでに持ち帰り今のうちに読むことにした。

天文学者が描くスパイが暗躍する科学サスペンス。
ストーリー的には特筆すべきところはないが、
天文学者(男)とCIAの情報分析官(女)の本筋に関係ないラブシーンが入ったり、
ラストで唐突に天文学者によって世界が救われたり、
作者が天文学者なだけに、おそらく自分を投影したであろうご都合主義展開に「ええかげんにせい!」と怒鳴りたくなる。

あとがきで、作者は本業の傍ら小説を書き続けるつもり、と書いているがネットで検索してもこれ以降の翻訳された小説は見つからない。
その理由は推して知るべし。

※ J・クレイグ・ ウィーラー氏のホームページ
http://www.as.utexas.edu/~wheel
アメリカではこのシリーズの続編が出版されているみたいです。

【本】『手塚治虫 原画の秘密』手塚プロダクション (編集)

切り貼りにもほどがある。
コピーを使うとかや再編成しやすいコマ割りで描くとか何とかならなかったのか。
切り貼りを前提としている漫画の作り方がよくわからない。

記憶は最新の完成原稿で上書きされていくものだから、どういう推移で変更されていったのか、当の手塚氏も完全には把握できなかったのではないか。
手塚氏があと一五年、いや一〇年長く生きたならいち早く原稿をデジタル化したことだろう。
ここで行われていることのほぼ全てをデジタルで代替可能なことだから。
(しかも元の原稿から劣化することはなく、前の段階の原稿にも容易く戻すことができる)

シノプシス(あらすじ)メモからネーム、下描き、完成原稿、修正原稿、印刷された原稿
へのグラデーションが興味深い。

手塚氏が感性重視でなく理屈の人で、絵がセリフに従属している作り方をしていることがわかる。
紙に描いた絵に溺れることなく、物語側から漫画をしっかりとコントロールしている。

【本】『現代思想2004年1月号 特集=マトリックスの思想』

僕が哲学系の雑誌を買うときは、サブカル関係の特集が組まれたときだけ。
そんな浅い知識で手にとったこの本、『マトリックス』を俎上に載せ、社会から、文学から、テクノロジーから、文化から……そして哲学から、様々な識者が幅広い視点から論じているのだけれども、しょせん哲学的用語の語彙に乏しいこの僕の国語力、何度文章を繰り返し読んでも、内容を理解し難い。

映画『マトリックス』に関しては、DVDも、シナリオや絵コンテ、バックグラウンドとなるアメコミも所有しており、内容をほぼ暗記している僕なのに。

逆に、『マトリックス』を観ていなくても、哲学的用語に堪能で、こういう議論に慣れている人ならわかりやすいのだろうか?

「」の多用がうざい。

こういう本で、モーフィアスを演じる「ローレンス・フィッシュバーン」と「サミュエル・ジャクソン」を記述する「間違い」があるのはいかがなものか。
僕には「意味」のわからない難しい「言葉」で「論」じられていても、「実際」は「大したこと」を「書いて」いないんじゃないかと「思って」しま「う」。

【本】『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル ヤン・シュヴァンクマイエル(挿画)

ヤン・シュヴァンクマイエルのイラストが要らなすぎる。

昔からアリスはピンとこなくて、今回の再読もあまりピンとこなかった。
何よりも夢オチってのが安易でよくない!

夢前提で読み込むと逆に、夢というには整合性がありすぎて物語臭かったり。
『不思議の国のアリス』が何で人気があるのか、わからない。

【本】『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル ヤン・シュヴァンクマイエル(挿画)

『不思議の国のアリス』は繰り返し何度も読んだが、こちらは初読。
広瀬正『鏡の国のアリス』(全然違う内容)を読んでいたので、知っているつもりだった。

『不思議の国のアリス』よりも起こる出来事の夢っぽさがリアル。
ただ、チェスの描写は多いにも関わらず、鏡のギミック描写の少なさがよくわからない。
鏡描写を消して、タイトルを『チェスの国のアリス』にしてもよかったのではないか。

ハンプティ・ダンプティがアリス絡みで中一の英語教科書に掲載されていたのだけれども、アリスが大きな穴に落ちていく記述、チェシャ猫が登場することから『不思議の国のアリス』の話かと思っていたら、ハンプティ・ダンプティが登場するのはこっちの方。
つまり教科書版はディズニー映画『不思議の国のアリス』のような両方のアリスの折衷案だった……
約三〇年越しに知った真実。

あと、ヤン・シュヴァンクマイエルのイラストが要らなすぎる。

【本】『読書は「アウトプット」が99%』藤井孝一

この本に書かれていることが、こういう考え方もあるうちのひとつ、ということもわかった上で……

読書を何かの役に立つものとして、取り上げる考え方は好きじゃない。

読書、あるいは映画、芸術鑑賞、音楽、文化に関わるもの全ては、楽しむことが主目的でそういうものを楽しむ余裕があるからこそ人生に深みが増すのではないか。
功利的な(手っ取り早く利益を得るため)目的中心で本を読むこと自体、それ(人生に深みを増すこと)を損なうような気がする。

漫画にしろ物語にしろ、副次的に何か役に立つこと自体は悪いことではないと思うけれど、主目的は目的がないこと、楽しむこと。

そもそも教養自体が娯楽であり、娯楽のために使う時間が生まれるということが文明が進化していることの証左。
ビジネスマンのまず読むべき本が、この本で紹介されているような自己実現に関係のあるものばかりだったら、人類の文明もまだまだ余裕がないのだなあ、と思ってしまう。

例えば科学……素粒子を抽出するための大型ハドロン衝突型加速器なるものをあれだけの時間、大きさ、人的資源、費用をかけて作るのは、直接的な目的があるからでなく、素粒子とは何ぞや、宇宙の果て、宇宙の始まりは? という知的好奇心が先だから。

即、得ることができる知識はサプリメントと同じ。
一見遠回りで関係のないところから栄養をとらないと本当の意味で身体のため(人間性、教養の深さに繋がらない)にならない。

……以上、そんな「アウトプット」をしてみました!

【本】『ドリームマスター』ロジャー・ゼラズニイ

途中までは難解でなくむしろわかりやすく読みやすい内容だったが、ラストで一気にわからなくなった。
解説によると『トリスタンとイゾルデ』をモチーフに読み解く物語らしいが、そもそもその原典がそこまで日本の人口に膾炙しているとはいえない。
(僕もあらすじをかろうじて知っているのみ)

解説を読んでもとうてい理解できたとは言えない有り様。

【本】『拳闘暗黒伝セスタス(1)』技来静也

ローマ時代、拳奴の少年が闘いながら成長していくさまを描いた話。

文句なしに面白い! 

こういう輪郭線がキッチリ描かれて、何が行われているのか正確に把握できる絵が、自分は好きだということを再認識。
容赦の無い暴力描写が心地いい。

【本】『ヒグチユウコ作品集』ヒグチユウコ

イラストレーター、ヒグチユウコ氏の画集。

この人の絵はかなり好き。
一見背景があるような絵もモチーフの積み重ね。
モチーフだけしか描かないところ、潔さを感じる。

グロテスク八割、カワイイ二割。
なのに逆にかわいい二割の印象が、カワイイだけで構成されるものより圧倒的に強くなるという不思議。

僕はグロテスク九割九部だから……あと二割カワイイかカッコイイを増やさなければならないな、と思う。

【本】『精神分析学の誕生』L・シェルトーク R・ド・ソシュール

「動物磁気」と呼ばれる精神療法からフロイトによる「無意識の発見」に至るまで、心理学が学問として成立するまでついて書かれている。

語られている言葉は難しくなく、むしろ平易な表現で書かれているにもかかわらず、僕の頭の中にちっとも入ってこない。
そもそも心理学がどういうものか、一般的に知られているレベルしかわからない。
学問としての素養が自分にはない。

だから何が重要で何が重要でないのか優先順位がわからないので、書かれている文章を目で追うことしかできない。
今は専門的に学ぶ余裕が(お金も時間も)ないのだが、教養として最低限、専門書を読むことができるようになるレベルの心理学を学ぶためにはどうしたらいいのだろうか。

【本】『フロイトの精神分析』鈴木晶

フロイトの精神分析学を図を交えわかりやすく解説した本。

僕は心理学に関しては全くの素人で、専門書を読んでもぼんやりとしか理解できないので、まずは専門用語の意味を理解しようとこの入門書を読んでみる。

ノートにメモをしながら、わからないところはネットで調べ、行ったり来たりしながら時間をかけて読む。

僕はフロイトの精神分析は基本的には文学的/芸術的なものと考えている。
きつい言い方をすれば疑似科学。
科学的に反証できないことが多すぎて、科学の範疇に入れることができない。

しかし、そういう偏見が理解の妨げをしていることも確か。

帝国主義的言語という面だけで英語を勉強することに抵抗があって劣等生だった学生時代のように、思想的偏りが、とある学問を理解することを妨げることによって生まれる弊害を(人生も半ばを過ぎてもう遅いかもしれないが)、これからの自分は何とか排除していきたいものだ。

「そういうものの見方」と他人のものの見方に暖かく眼差しをもつことができるよう、許容量を広く持って行きたい。

……にしても今の基準からすると、フロイトは性的なものを過大評価し過ぎに見える。
食欲、睡眠欲、名誉欲、支配欲など本能による心の動きは性欲以外にもたくさんあると思う。

イヌやサルを見ていても性欲以外の欲望が見え隠れするのだけれども、精神分析学が誕生した一九世紀後半、進化論が知られていたにしろ、人間と動物が進化の過程で完全に分離しているような思い込みがまずありきで、進化の途中のグラデーションが見えなかったのだろうか。

ということはさておき、とりあえず勉強、勉強。

【本】『成恵の世界(全13)』丸川トモヒロ

宇宙人と地球人のハーフ成恵と地球人のボーイフレンドの周囲で起こるSF的ドタバタを描いた漫画。

意外と情報量が多いので、普段漫画を読む倍の時間をかけて読了。

初期のSF風ドタバタも嫌いではないが、後期のシリアス風な展開も嫌いではない。

SFとして物語としての完成度よりも、恋愛のリアリティラインの低さが気になる。

いつも学校でイチャイチャしている成恵をいさめようとして、付き合ってもいないクラスメイト同士がキスしてみせるところ……普通そんなことするわけないだろ!

恥ずかしくて見ていられない。
現実、非現実にかかわらず著者の妄想をむき出しにしたイド(無意識)のようなものだと思えば、恥ずかしがらずさらけ出すことができるそれ自体すばらしい才能だと思う。

【本】『僕は問題ありません』宮崎夏次系

短篇集。
しかしどんな物語か説明することが難しい。

キャラクターが落描きのようだったり、でも背景が緻密に描き込んであったり、起承転結がなくて感覚で描いているかとおもいきや、意外と起承転結があったり、でもなかったり、思いつきかとおもいきや、ちゃんと伏線がはられていたり、回収しなかったり。

投げっぷりが、僕には到底真似できない思い切りのよさ。

感覚的な部分と、緻密な計算が(技術)が整理されずに投げ出されている印象。
それは物語だけでなく、絵も、キャラクターも、全てが寄る辺なく空中をたゆたうような浮遊感……その絶妙な立ち位置が宮崎氏の魅力なのだろう。

【本】『クジラの子らは砂上に歌う(1)』梅田阿比

世界を覆う砂海の上を移動する居住スペースであり船「泥クジラ」、久しぶりに邂逅した廃棄された「島」へ仲間とともに渡った主人公チャクロはそこで少女と出会う……そんな漫画。

漫画を読んでいるつかの間、ラピュタを初めて観たときのような、異世界を旅している感覚をリアルに味わうことができた。

繊細な線、練りこまれた設定、魅力ある世界観の風景、超常の力の描写……漫画として抜群にうまくて、読んでいてため息が出る。
まだ物語の片鱗しかわからないが、すでに傑作になるだろう予感。

ただ、主人公が女の子にしか見えないように描く理由だけはよくわからなかった。
少女漫画だから?

【本】『ヨルムンガンド(1~2)』高橋慶太郎

兵器を憎む少年が何の因果か武器商人のボディガードをする話。

文句なしに面白い。
飽きさせない展開。
キャラクターが魅力的、かつ新鮮。
ミリタリー関係の小道具、使い方が抜群に上手く、リアリティを感じさせる。

背景を極力手を抜いているように見えるが、そういう部分のリアリティは世界観と同じく重視していないのかな、と思う。

【本】『千年万年りんごの子(全3)』田中相

リンゴ農家に婿入りした主人公は、あやまって自分の嫁に禁断のりんごを与えてしまう、それは村に伝わる秘密の祭儀のはじまりだった……という話。

ラストはいわゆるハッピーエンドにならなかったが、昨今の「愛が勝つ」ような個人的恋愛の勝利へ安易に至らず、しかし愛が負けたわけではなく、主人公はじめ周囲の人たちがこの出来事によって得ることができた、(諦念にも似た)ほんの少しだが地に足の着いた安らぎを見ていると、作者の誠意を感じる。

それは漫画の表現とも連動していて、漫画的な醍醐味である、ダイナミックな飛躍、高揚感と、「言語化できない」心の動きを表現する繊細な表現の対立が、ラストにおけるファンタジーとリアルの戦いと同じく拮抗している。

この漫画で描かれていることは東北の村の秘密の祭儀についてでだが、寄る辺もなく佇んでいる主人公が自分の居場所を見つけようとする行為が、普遍的なテーマにつながっていて、読んでいる僕は、翻って自分のこと、この世界のことに思いを馳せている。

……本当に漫画がうまいひとだなあ。

【本】『All You Need Is Kill』桜坂洋

異星から来た敵と戦う主人公が時間をリプレイする能力を身につけ、何百回と時間を繰り返し少しずつ成長しながら人類を勝利へと導く話。

ハリウッド映画版を先に観て、遅れて原作小説を読了。
映画版、小説版、それぞれいいところと悪いところがあって甲乙つけがたい。

映画版の方が設定が整理されていて飲み込みやすいが、そのぶんラストが冗長になっている。
しかしストーリーテリングや映像的な面白さは当然ながら小説版より上回っている。

小説版はプロットとキャラクターと世界観がそのまま投げ出されたような印象。
ラノベなので重厚なつくりではなく、「小説」としては物足りない。
ラストは映画版と逆にあっさりスパッと切っている。
映画版ほど楽天的なハッピーエンドではなくてややリアル寄りだ。

ちなみに僕の好みは、映画版。

【本】『 I【アイ】(全3)』いがらしみきお

途方もない能力を持った少年イサオと医者の息子雅彦の出会いから老境を迎えるまでの話。

途方もない物語が始まったのかと思わせて、
三巻では着地するところに着地した印象。

平凡な家庭から出て流浪の人生を歩み、盲目、聾者の陶芸家となり、最後は東北大震災で家族を失う雅彦。
新興宗教の教祖然とした振る舞いのイサオの方が社会性がある。

ラスト近くに登場するセリフ、
「全部言葉だべよ」
は映画『マトリックス』の電脳空間を想起させる。

マトリックスではそれを自由に扱えるものが救世主なのだが、この漫画では目で見える人が神を見ることができ、言葉で見てしまう人は神を見ることができない。

……一晩たっても自分の中でこの漫画を言葉で整理することができないのだが、それはやはり神に関する物語だからなのだろうか。

【本】『アンダーカレント』豊田徹也

夫が失踪した風呂屋のおかみは、水の中で自分の首が絞められる、そんな白昼夢を繰り返し見るのだった……そんな話。

精緻な表現。
日常描写。
個人的苦悩を掘り下げることによって生まれる逆説のような普遍性。

う〜ん嫌いではないけど、僕の立ち位置からかなり遠くにある作品だ。
何もなくてもドタバタ走り回る、座敷童のような自分だから。
全く僕の日常には繊細さの欠片もない。

【本】『よくわかるフロイトの精神分析』久能徹・太田裕一

精神分析、それの用語について知る必要があったので読んでみる。

やっぱり精神分析は科学とはいえない、芸術、文学の領域だと再認識。

精神分析の資格をとるためには、
大学院卒業資格を持っていることが前提で、
五年の臨床経験を受け、
セミナーを受けたり審査のための精神分析を一年受け、
訓練分析を二年以上受け、
スーパービジョンという上級者の指導を受けながら二年以上継続して二例の精神分析を行う必要があり……資格を得た頃には四〇歳を越えてしまうのもザラとのこと。
一三年現在、全国に三七名しかいない。

お金も時間もかかるし、そこまで信じなければできないことって、やっぱり芸術、文学……そして宗教みたいだ。

【本】『面白いほどよくわかるフロイトの精神分析』立木康介 (監修)

面白いほどよくわかったのかはわからないが、少なくとも専門用語については一定レベルの理解ができた。

用語の説明が丁寧でこの手の入門書のなかでは最も役に立ったように思う。
(あくまで僕の好みだが)

本書とは直接関係ないのだが、専門用語を知れば知るほど細かい言葉の由来が気になってくる。
たとえばユング「分析心理学」だが、他の心理学だって分析するわけで、より多く分析するのか分析の仕方が違うのか、どうして無印の「分析」とだけ特記することになったのか。
今となっては理解し難い。

【本】『精神分析入門・夢判断 (まんがで読破)』ジークムント・フロイト (著) バラエティアートワークス(企画・漫画)

フロイトの代表作『精神分析入門』『夢判断』を伝記も交えて漫画化。

あの膨大な内容をどうやってまとめたのかと思って読んでみたら、まあそのぐらいの内容でしょうな、という感じ。
あまりにも常識的すぎて特記すべきこともない内容。
現代ではもはや、潜在意識、コンプレックス、ナルシズム……などという精神分析で生み出された概念は、本や映画を読み解いたりするときの前提となっている。

普段から本を読まないような人なら、この本を読んで得るところもあるだろけれど……