日別アーカイブ: 2014年6月30日

【本】『レ・ミゼラブル』ヴィクトル・ユゴー

この本には思い入れがある。小学四年のクリスマスにサンタクロースが枕元に置いてくれた本、そして僕が文章で書かれたもので初めて泣いた小説だ。
去年、ミュージカル映画化されたものを観て恥ずかしいぐらい映画館で号泣してしまったが、どうして自分がここまで感動したのか考えたところ、映画の短い尺で感動したとは思えず原作を読んだ記憶を呼び起こさせられて泣いたのではないかと疑い、実家から持ってきた。
改めて読みかえすと忘れていた記憶がよみがえる。ジャン・バルジャンが幼いコゼットの服を抱きむせび泣くシーン、小学生の僕はここを読むたび泣いたのだが、今回も鼻の奥が刺激されて涙腺が緩む。
このぐらい思い入れが強いと、映画どころか、いま感動して泣いているのか、泣いていた自分を思い出して泣いているのか、もはや客観的に判断できない。
芳醇な物語世界に酔う体験なんて人生でそう何回もあるわけでない。こういう思い出は大切にしたい。

【日記】14年06月30日 体重を測定できず

四時起床。
漫画喫茶全体にたちこめる汗の匂い(負け犬のフェロモン)で目覚める。
自分の体も汗臭くて不快。
始発に乗るため新橋駅へ向かう。
風俗街を歩きながら見上げると、ビルの谷間の曇天から時折青空が見え隠れしている。
途中で野菜ジュースを購入、昨夜食べ過ぎたので僕の今日の朝食はこれだけ。
カロリーを抑えるためというのもあるがそれ以前に胃がムカムカして何も入らない。
浜松町でモノレールに乗り換え、人生初の空港行きのモノレール。
曇天の下を颯爽と進む。
早めにロビーに到着したので少し仮眠してから、とりあえず六時二五分発の沖縄行きの乗継便に乗る。
飛行機から見下ろすと日本全体が雲に覆われ、富士山だけ顔をのぞかせている。2014-06-30-06.57.43
沖縄付近は雲に覆われ眼下の雲が稲光で点滅しており、那覇空港に着陸すると豪雨。
不安な気持ちになりながら、宮古島行き乗継便に乗る。
一〇時に出て五〇分に到着、宮古島は沖縄と一転、ところどころ積乱雲のアクセントが効いた気持ちのいい青空。
空港のレストランに入る。
にて昼食、もずくそば。

公営バスに乗り市街地へ向かう。
観光客はレンタカーに乗るかリゾート地へ直行するシャトルバスに乗るからなのか、空港のバス停から市街地行きのバスに乗ったのは僕とあと一人のおっさんだけ。しかもバスは一〜二時間に一本しか走ってない。観光客も地元民も圧倒的にバスを使ってないようだ。
市街地のレンタサイクルショップで自転車を借りる。
渡された貸し出しカードのようなものに僕が自分の住所を書き込むと、自転車のおじさんの動きが止まる、
「東京の練馬はもうビルが建ち並んですっかり変わっているんだろうか。俺の知っている練馬は五〇年前だから……」
「めちゃくちゃ建っているよ!」
とは言えずに
「いまだに東京二三区で一番田畑が多い区みたいですよ」
と言っておいた。ウソではない。

自転車で宿泊地へ向かう。市街地から一〇キロほどの距離。
普段なら四〇分ぐらいで移動するのだが、重いザックを背負っているのと宮古島の激しい日光と写真を撮りながらゆっくり移動するのとで二時間半ほどかかってしまう。
宿の場所の地図と連絡先は、昨夜、居酒屋で紛失してしまったが、だいたいの場所を覚えていたのでそのあたりを走っていると、ズバリ宿の看板があった。
「農家民宿●●→」
矢印の方向へ行くとまた矢印があって、それを追って進むと延々続くサトウキビ畑の中に誘導される。不安になってくるがさらに矢印を追って進むと、サトウキビ畑の中にある集落の農家に辿り着き……そこが宿だった。
「農家の宿」って謙遜でなく本当に農家だった。2014-06-30-18.48.22
RPGでありそうな迷いの森の奥にある隠れ村を想像してしまう。
そしてせっかく宿に着いたのに、誰もいない。声を何度もかけチャイムを鳴らしても出てこないので、念のため電話をかけたら中でむなしく鳴り響くだけだった。
諦めて重いザックを背負ったまま、サイクリングを続ける。
サトウキビ畑を回り、激しい高低差の大橋を越え、来間島に到着。
暑さと登り坂とザックの重さで、近年稀に見る苦しさで死を予感する。
島一面を見ることのできる展望台から見下ろすとその苦しさは吹き飛ぶ……かと思うとそうでもなく、やっぱり少し苦しい。風は心地よかったが。
展望台はあまり誰も掃除しないで放ったらかされているせいか、何匹か大きな蜘蛛が巣を作っていた。
後から登ってきた関西から来たとおぼしき女子二人組が
「うわ〜蜘蛛の屋敷みたいや〜」
と大騒ぎしていて、RPGありそうな蜘蛛屋敷ふう塔のイベントを想像してしまう。2014-06-30-15.37.28

2014-06-30-15.34.30

2014-06-30-15.31.44
引き続き来間島を一周するが、とりたてて個性があるわけでなく素朴な集落の印象。
庭先のハンモックで揺られて眠る女性を見て、
(でもこういうところで日がな一日過ごすのもいいかもしれない)
と思う。
よろよろと自転車を走らせる。
鳴き声はほとんど聞こえないのに、街路樹とすれ違うと「ブビビビッ!」と叫び声を上げて数匹のセミが四方に飛んで行く。
あまりの暑さにセミがマナーモードになっている。

疲れきってまた宿に向かうと、今度は、ちゃんとが人いた。
宿の女将に宿代を前払いして部屋に案内される。
僕の部屋の名前は「サウナの間」。2014-06-30-16.31.49

なるほど全ての窓を開け放していても部屋に座っているだけで汗がとまらない。
2014-07-01-08.06.29
ちなみにトイレは昔ながらの離れ。

一八時に食堂へ。
宿にて夕食、いろいろ。
離島の民宿の食事で、こんな豪華な料理は初めてかもしれない。
給仕を手伝っている中学生ぐらいの宿の娘が、その合間、台所で女性誌を見ながらずっとダンスの練習をしている。
他の客の方がマンゴー狩りで収穫したマンゴーを差し入れてくれる。
もぎたてのマンゴーってこんなにおいしいのか!
満足して部屋に戻り、明日以降の計画を立てている。
夜、真っ暗になり離れのトイレに行くと少しお化けが怖い。
そのまま宿の外へ、明かりのない農道の暗闇の深層の中を沈むように歩いていく。
目が慣れてきて月のない夜空の明るさだけでぼんやりと周囲の農道が見えてきて、ゆっくり見上げると、星がやかましいぐらい瞬いている。
圧倒的な存在感の灰色の天の川が星の彼方に横たわっている。
流れ星が白い線を描いて消える。流れ星が白い線を描いて消える。流れ星が白い線を描いて消える……
僕も頑張らなきゃな、と少し涙を流しながら思う。

そしていつものことだが、フラッシュバックで最近のいやなことが流れ星のように一瞬思い出し瞬いて消える。瞬いて消える。瞬いて消える。
………………消えない。

二二時就寝。
「サウナの間」は伊達じゃなかった。
僕は普段クーラーをつけずに窓を網戸にして眠るのだが、今日は断続的に暑さで目覚めうなされ、眠りに集中できない。まさにサウナのような暑さ。
でもあえてクーラーはつけない。