日別アーカイブ: 2012年7月31日

【日記】12年07月のこと

7/1
ネームを送ったのだが、編集が取材中でずっと連絡つかない。
チェックのないまま作業を進めていいものかどうか……
夕方ようやくチェックが入ったので、下描きを始める。
事前にある程度進めていたので、深夜までに下描きは終わる。

7/2
ペン入れを始めるがなかなか筆が乗らない。
最初の一ページに五時間かかり、最後のページは二時間で終わる(背景込み)、いつものこと。
慣れると早いのだが、慣れるほど最近仕事をしていないからか、エンジンが回り始めるまで時間がかかるのだ。
夕方、病院で注射。
帰りに自分を上げるためにケンタッキーフライドチキンを買ってくる。

7/3
三時間だけ眠り、何とか昼までにペン入れを終える。
猛烈なスピードで仕上げ、夕方までに何とか完成、原稿を送る。
少し仮眠をとった後、旅行の準備。
不動産屋から電話。
マンションが建て直しにつき八月末までに急遽、退去してくれとのこと。
唐突な申し出に心がざわめく。
二一時、家を出て羽田空港へ向かう。
この時刻の空港はほとんどの店が終わり照明も落とされ、暗い。
終電の後に出発するから格安の料金なのだ。
一時半、羽田から飛行機は出発。

7/4
飛行機で一瞬うとうとするが熟睡はできない。
四時に沖縄到着、まだ深夜。
(北海道からは二時間半、東京からは一時間半ほど日の出が遅い)
一〇年ぶりの沖縄本島。
空港から出るとなま暑く、汗ばむ。
夜の底を街燈の橙色がぽつりぽつりと照らしている海沿いの道路をひとり行く。
深海を歩くようだ。

橋を越えたあたりから空が白味を帯びてくる。
国際通り、コンクリートの白い建物の隙間から朝日が差し込む。
道路沿い公園のベンチで休んでいる。
前を右へ左へホームレスが鳩を追い掛け回している。
見なかったことにしてロンドンの方角を向き水分を補給していると、ホームレスから話しかけてくる。
……離島へ行くといいよ。
「何処がいいんですか?」
……久米島だ、なんといっても石畳がきれいだ。
「じゃあ僕行ってみます!」
……俺は行ったことないけどな。
こけそうになる。
浮浪者と別れ、しばらく歩くと見覚えのある公園に入る。
この公園でを一一年前、散歩していたんだっけ。
その後、公設市場を通って海ぶどうを買ったっけ。
次々と思い出が蘇る。
アーケードを歩いていると安宿を発見。
今晩泊まる部屋を確保する。
受け付けのナイスガイ兄ちゃんは和風イレズミが両袖からはみ出て自己主張をしている。
大阪の公務員だったら批判にさらされるだろうな。
沖縄のモノレール「ゆいレール」に乗る。
以前沖縄へよく来ていた頃はまだ完成していなかったので今回が初乗車。
車内から見える光景はまるで空を飛んでいるかのよう。
沖縄の街並みは白く輝いて美しい。
終点の首里駅で下車。
一〇年前、このあたりをよく歩いた。
しかしゆいレール開通前後の再開発で僕の思い出のあの場所はもうほとんど消えていた。
思い出と僕のパソコン内画像ファイルの中にしか残ってないのか……
首里城界隈を歩く。
さすがに古い町並みのこのあたりは記憶の中と相違ない。
懐かしさがこみ上げてくる。
何度も足を運んだ首里城。
でも金を惜しんで入場することは決してなかった。
二月に首里城横の広場のひなたぼっこで、日焼けで広範囲にやけどしたこともあったな。
首里城南側の坂を降りる。
ダムに到着、ダムの斜面には色とりどりの植物が生い茂り、やはり思い出の痕跡はもうない。
しばらくダム横の坂を下り、琉球王国時代の石畳を登る。
一〇年前登ったときはしんどかった記憶がないのだが、体重が一五キロ増えた今回僕の実感は、急角度の坂でしっかり踏ん張らないと下まで転がり落ちそうだった。
しばらく歩いては座って休み……を繰り返す。
上まで登り切った後、しばらく呆然として芝生で座り込んでいる。
体力が回復してからバスでバスターミナルへ移動、読谷行きバスに乗り替える。
読谷バスターミナルから残波岬へ向かう。
残波岬は一〇年前に訪れたことがある。
ぱらつく小雨。立ち込める暗雲。ささくれだった黒く高い崖。地獄のような風景。時折雲間から太陽。燈台に一筋の光の線が照射。目もくらむような高さの燈台から見下ろす。
……そんな残波岬の記憶。

バスの運転手は三〇分ぐらい歩けば岬に着く、と言った。
道を尋ねたバスのターミナルの社員は一五分ぐらい、と言った。
ところが一五分ぐらい歩いた標識にはあと2・2キロ、さらにその先の標識はあと3キロの表示が。
草原を蛇行する道のはるか向こうの森の奥にぽつんと見える白い燈台。
沖縄の真夏の日差し、徹夜明けの七〇キロオーバーの自分には過酷な道程だった。
ジーパンが蒸れて尻は炎症、足はまめ、膝関節はきしんで悲鳴。
やっとのことで岬の灯台に到着するが散策する気力も時間もなく、とんぼ返り。
帰途は更に過酷だった。
何が片道一五分だ!
往復二時間半、ようやくバスターミナルに戻る。

帰りのバスでアメリカ軍基地の白人子供たちがバスに乗り、お金を払わず降りる。
運転手が料金を払うように言うと、整理券を入れて「これ入れた!」的なジェスチャー。
財布の中を見せてお金がないアピール。
運転手は途中で諦めてバスを発車させる。
そこから終点までの一時間、ずっと運転手の愚痴が続く。
……あいつら日本人を馬鹿にしてるんだ!
……わかってて無賃乗車をするんだ!

何はともあれ沖縄人の生の声が聞けてよかった。

二〇時頃、近所の定食屋で中味汁。
店が終わる間際だったので余った大根の煮付けをいただく。
宿に戻り、自室で気を失うように眠る。

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7/5
五時半起床、六時に宿を出る。
船着場で昨日のホームレスの神託通り、久米島行きのチケットを買う。
乗船する直前、船を撮影しているときに誤ってカメラレンズのフタを地面に落とす。
そのことに気が付き慌てて甲板から港を見ると、地面に黒い小さな丸いものが見えている……しかし時すでに遅し八時半出港。
船の中でここ数日の睡眠不足を取り戻すぐらいにゆっくり眠る。
一二時半頃、到着。
久米島は沖縄本島とは違い素朴な印象。
今日泊まる予定の宿が何処にあるのかわからないので電話で場所を聞くと……街の通りにある、としか言わない。
仕方なしに住所を見ながら探すとなるほど街の通りに宿がある。
しかし通りの南側とかバス停の近くとかもうちょっと細かく説明できるやろ、と思う。
近所の定食屋で久米そば。普通。
近所を散歩がてら、街の北にあるだるま山を登る。
飲み物を途中で買うことを忘れ、直射日光の下、山道を歩いている。

過去のことを思い出しながら歩き、ふと思う。
未来の自分が過去を思い出し、
歩いている最中であるところの今の僕を思い出すとき、
過去のことを思い出している自分を思い出すのだろうか。
いやひょっとすると自分が今歩いているのではなく、未来の自分が過去を思い出している最中なのかもしれない。

山道を出て、幹線道路をしばらく歩き、疲れきって宿に戻る。
昼寝。
夕食は島の魚料理。
沖縄の魚は骨が細かくて食べにくい。淡白。
夕食後、しばらく近所を散歩。
海岸で夕日を眺める。
部屋に戻るとゴキブリが床を走り、僕の服の下に潜り込む。
見なかったことにして気を失うように眠る。
冷房が使えず、サウナのような蒸し暑さ、パンツ一枚で眠る。

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7/6
朝食を食べてから八時一六分発のバスに乗って島の裏側へ移動。
バスの運ちゃんはラジオで好きな番組を流している。
宿に荷物を預け、レンタサイクルで島を回る。
グラスボートツアーの看板を見かけ、衝動的に出発直前のボートに飛び乗る。
僕以外にはもう一人、剃髪したおじさんが乗っている。
僕はひそかにおじさんに「僧侶」と名付ける。
一〇分ほどでボートは沖の砂浜でできた群島に到着。
そこはハテの浜、久米島の沖に幅二〇メートルぐらい数キロに渡って続いている群島状に続く浜辺。
死んだサンゴが堆積して波で砕けて砂になり生まれたという。
僕はテンション上がり、服を脱ぎ捨て、五年ぶりに海で泳ぐ。
サンゴ礁、派手な魚と目線を同じくして泳いでいると、僕も魚になったようだ。
一時間ほど泳ぎ、砂浜に上がって周囲を見回すと、他の人達はボートで帰ってしまい、無人の白く輝く浜辺。
夢のなかで感じる心細さの心象風景のようだ。
一二時半頃、僕を砂浜に届けたボートが迎えに来る。
昼食は日替わり定食とヤギの刺身。
ヤギの刺身は凍っていてシャーベットみたい。
口の中で溶けて徐々に臭みが広がってくる。
夕方まで自転車で島の東半分をひと周りする。
沖縄の浮浪者に言われた「石畳がきれいだ」は、石畳じゃなくて畳石だった。
石畳は溶岩が溶けて亀の甲羅みたいな形で固まったもの。
そんなにきれいじゃなかった。
島の南端を自転車で飛ばしていると不意の腹痛に襲われる。
慌てて草むらに飛び込み用を足すが、紙がない。
猛烈にテンションが下がり、島の南端、林道の先にある「鳥のくちばし」という奇岩を見に行く気力を失い、引き返す。
夕食は普通の島料理。
暑くてパンツ一枚で眠る。

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7/7
汗びっしょりで目覚める。
眠っただけでひと仕事終えたように疲れる。
午前中は着替えなどの荷物とお土産を自宅へ送ることに費やす。
ぶらりと入った沖縄料理屋で日替わり定食を食べる。

バス停へ向かうと、先に女性が標識の前に立っている。
後ろに並んで建っていると、僕の前で待っていた女性が、バス運行表を凝視した挙句、お土産や荷物をたくさん抱えたまま次のバス停留所らしい方向へ走っていく。
ひとり残された僕は不安になってその場でバス会社に電話をかけるがつながらない。
目の前の営業所に飛び込むが、テレビはついているのに誰もいない。
そんな中、もうバスの発車時刻。
すると営業所からパンチパーマの男が出てくる。
道路隔ててバス停で建っている僕に声をかける。
「乗るの? じゃあバスに乗って!」
倉庫に入っているバスに乗る。
ちなみに次の停留所に行く前にバスは道を曲がり、周回コースへ、僕の前で待っていた女性はバスに乗ることがなかった。
帰りの船にもいなかった。

一四時出港。
船内を散歩がてら客室から甲板を上がっていくと、一人の男が座禅を組んで手を合わせ何かを呟いている。
前日、ハテの浜行きボートに乗り合わせた「僧侶」だ。
一八時到着。
船から降りると、一昨日落としたカメラレンズのフタが車に踏み潰されてぺったんこになっているのを見つけ、悲しい気持ちになる。
国際通りへ向かう。
平和通りを入って公設市場でこの旅行で一番豪華な食事


沖縄の魚の刺身、海ぶどう、島らっきょう……
県庁前駅でゆいレールに乗り、那覇